JOY TO WORKS MAGAZINE
ウェブマガジン

気づけばそこにある"見えない境界"

ハタラクの壁

第1回|「介護離職の壁」——仕事と家族ケアの両立困難



親や配偶者の介護を理由に、働き盛りの世代が職場を離れていく——。厚生労働省によれば、毎年約10万人が「介護離職」を余儀なくされています。制度上は介護休業や時短勤務が用意されていても、実際には「職場に迷惑をかけられない」「収入が減るのが不安」といった理由で使いにくいのが現実です。今回は、誰にでも訪れる可能性のある「介護離職の壁」を取り上げます。
【壁の定義】介護と就労のはざまで立ち止まる人々
「介護離職の壁」とは、家族の介護が必要になったときに、働き続けたいという意思があっても、制度や職場の環境が追いつかず、最終的に離職を余儀なくされる状況を指します。

制度だけ見れば、日本は世界でも有数の「両立支援制度」を整えている国です。介護休業や介護休暇、時短勤務や在宅勤務制度など、法律上の枠組みは存在しています。ところが実際の現場では、「制度はあるが使えない」という声が圧倒的に多い。理由は、職場内の人手不足、代替要員がいない、休んだらキャリアが止まる、といった構造的な問題です。

つまり、介護離職の壁は「制度の不足」ではなく、「制度と現実の間に横たわる深い溝」なのです。この溝が埋まらない限り、多くの人が働き続ける道を断たれてしまいます。
【なぜ超えられないのか】制度と現実の隔たり
介護離職は「個人の選択の問題」と片付けられがちですが、背景には社会全体の仕組みが絡んでいます。

第一に、制度と現実のギャップ。介護休業制度を知っていても実際に取得する人はごく一部に限られます。休んでいる間に職場が回らない、同僚に迷惑がかかるといった理由から、申請する前に断念するケースが多いのです。

第二に、収入不安。介護休業中の給付金は給与の67%(半年以降は50%)程度にとどまり、長期介護には到底足りません。共働き世帯であっても、生活費や教育費、住宅ローンを考えれば、長期間の離職は現実的に選びにくい。

第三に、職場文化の圧力。特に中小企業や専門職では「代わりがきかない」状況が多く、制度を使うこと自体が「職務放棄」と受け取られかねません。上司や同僚に迷惑をかけたくない心理が、壁をさらに厚くしています。

そして最後に、孤立感。介護は家庭のプライベートな問題として扱われやすく、社内で相談しづらい空気があります。「助けて」と言えないことが、結果的に一人で抱え込むことにつながり、最終的な離職へと追い込まれるのです。
【どうすれば超えられるのか】支えを広げる三つの視点
この壁を超えるには、個人や企業だけでは限界があります。社会全体で「支えの輪」を広げることが不可欠です。

まず企業のアプローチ。制度を用意するだけでは意味がありません。「実際に使っても大丈夫」という空気を作ることが大切です。代替要員を確保する仕組みや、休業者の復帰プランをあらかじめ整えておけば、社員も安心して制度を利用できます。また、管理職に対する介護研修を実施し、部下が介護で悩んでいるときに適切に対応できる知識を持たせることも効果的です。

次に個人のアクション。早い段階から地域包括支援センターに相談したり、介護保険サービスを利用することが重要です。多くの人が「何とか自分でやろう」と考えますが、制度やサービスを組み合わせれば、仕事と介護を両立できる可能性は広がります。

さらに第三者の存在も欠かせません。例えば——

🌐 全国社会福祉協議会:地域に根差した総合的な相談窓口

🌐 日本介護支援専門員協会:ケアマネジャーによる専門的なアドバイス

🌐 介護離職防止対策支援センター:企業と働く人に向けた情報提供や研修

こうした外部の専門家・団体とつながることで、「会社か家庭か」の二択しかないと思い込んでいた状況が変わります。

そしてJOY TO WORKSの役割。介護のためフルタイムで働けなくなった人を「助っ人」として受け入れ、短時間や限定業務で企業とつなぐ仕組みを持っています。離職一択ではなく「別の形で働き続けられる道」を示すことこそ、コミュニティの強みです。
【まとめ】壁を超えるのは一人ではない
介護離職は、誰にでも降りかかる現実です。制度が整っていても、使えなければ存在しないのと同じです。大切なのは、個人・企業・社会がそれぞれ役割を果たし、支え合う仕組みをつくることです。

この壁を乗り越えるには、「働き手が制度を知り」「企業が風土を整え」「第三者が支援する」という三つの力を掛け合わせる必要があります。
あなたの職場では、介護と仕事を両立できる仕組みは本当に機能しているでしょうか?
JOY TO WORKS MAGAZINE
ウェブマガジン
役立つ情報やコミュニティのニュースやブログ記事などを載せていきます。
JOY TO WORKS トップに戻る