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ハタラクの壁

第7回「メンタルヘルスの壁」


働く人の心は、体と同じように揺らぎます。しかし多くの職場は、その自然な揺らぎを“想定していない”まま設計されています。
本人は「言いにくい」、企業は「気づきにくい」、制度は「つながりにくい」。その結果、心の不調が“評価に直結してしまう”という構造が生まれています。メンタルヘルスの壁とは、誰にでも起こりうる心の変化が、本来なら避けられるはずの不利益につながる職場の仕組みのことです。働く人が安心して助けを求められ、企業も早めに支援できるために、評価に至る前にどんな選択肢が必要なのかを一緒に考えていきます。

壁の定義:心の不調が“評価に直結してしまう”職場構造

心の不調は誰にでも起こる、きわめて身近な変化です。しかし多くの働き方は、「心はいつも安定しているもの」という前提でつくられているため、揺らぎが表に出た瞬間に“問題”として扱われてしまいます。
「弱さを見せてはいけない」「迷惑をかけたくない」という心理が本人を沈黙させ、企業側も“不調の初期”に気づく仕組みを持たないため、気づいたときには選択肢がほとんど残されていない。結果として評価や配置転換といった重い判断が必要になってしまいます。問題は、不調そのものではありません。
問題なのは、不調に出会った時の“扱い方”が整っていないことです。誰にでも起こりうる心の変化が、必要以上に重く扱われてしまう——この構造こそが「メンタルヘルスの壁」です。

壁がある理由:不調に気づき・調整し・支える仕組みが弱いから

メンタル不調をめぐる問題は、誰か一人の責任ではありません。本人も企業も制度も、それぞれ合理的に振る舞っているのに、結果として“誰も救われない形”が生まれてしまう。その積み重ねが壁を形成します。
本人は「迷惑をかけたくない」と抱え込み、企業は忙しい中で変化に気づけず、制度は整っていても現場とつながらない。つまり、“変化が起きたときに助け合う”という発想が職場設計に組み込まれていないのです。この構造が続く限り、不調は過剰に個人の責任とされてしまいます。


本人


  • 心の変化を自覚しづらい
  • 弱さと見られることへの恐れ
  • 相談先がわからない
  • ため込みやすい文化の中にいる
  • 相談=評価低下という観念が行動を止める

企業


  • 不調の予兆に気づきにくい
  • 管理職が心の変化の扱いに慣れていない
  • 一時的な調整の仕組みがないため、評価しか選択肢が残らない
  • 本人の申告が遅れ、企業の対応も後手になる
  • 支援の仕組みを制度化する余裕がつくれない

制度・社会


  • 一次予防が現場に根づかない
  • 産業保健との連携が弱い
  • 健常者向けメンタル教育が不足
  • “心は自己管理”という古い価値観
  • 身体疾患に比べ支援が遅れがち
壁の超え方:評価に至る“前”にできる選択肢を増やす

メンタル不調が“問題化する”のは、本人が崩れた瞬間ではありません。多くの場合、ずっと前から小さなシグナルが積み重なっているのに、それを受け止める“軽い選択肢”がないことが原因です。企業も本来は評価を下げたいわけではありません。ただ、調整や支援の仕組みがなければ重い判断しか残らなくなる。それは誰にとっても不幸な結果です。
だからこそ、評価に至る前に介入できる“軽い選択肢”を確保することが、もっとも現実的で効果的です。


本人ができること(※補足で詳述)


  • 状態変化に気づく視点を持つ
  • 心理的・身体的負荷を理解する
  • 相談先を早めに知る
  • どこに負荷があるか棚卸しする
  • 生活の基本リズムを整える

企業ができること


  • 一時的な業務調整という軽い選択肢の制度化
  • 管理職向けのメンタル教育
  • 1on1で早期の変化を拾い上げる
  • 申告が評価に直結しないことを明確にする
  • 成功事例を共有し、文化として根づかせる

制度・第三者が担えること


  • 公的相談窓口の案内
  • EAP導入支援
  • 管理職向け研修
  • 産業保健職との連携
  • ガイドラインの提示
補足:健常時から知っておきたい“心の守り方”

メンタル不調は突然訪れるように見えます。しかし実際は、心はゆっくり傾きながら、必ず何度も“小さなサイン”を出しています。恐れる必要はありません。大切なのは、心が揺らいだときに自分を守る“仕組み”を、揺らいでいない今のうちから整えておくことです。それだけで、働くことへの安心感は大きく変わります。

【1】 自分の“負荷ライン”を知る

ミスが増える、決断が遅くなる、朝がつらいなどの反応は、異常ではなく負荷のサインです。こうした“自分固有の変化”を知っておくことは、不調を早期にキャッチするもっとも確実な方法です。

【2】 溜まる負荷の“種類”を理解する

精神的負荷、認知的負荷、社会的負荷、時間的負荷、身体的負荷。この5つのどれが蓄積しているのか把握できれば、自分が崩れる前のパターンが見えるようになります

【3】 疲れたときの“逃げ道”を先に決めておく

10分席を外す、軽く歩く、深呼吸するなど、軽い行動リストを先に作っておくだけで、状態の悪化を大幅に防ぐことができます

【4】 相談できる相手を“先に”決めておく

相談するタイミングよりも、相談相手を先に決めておくことが重要です。これは、「周囲とつながっている」という安心感そのものが予防になるからです。

【5】 “最悪のケースでも大丈夫”という安全網を理解する

休暇制度、産業医面談、医療機関、業務調整などの選択肢を知っておくだけで、未来への不安が大幅に減ります。不安の多くは「知らないこと」から生まれます

まとめ:心の揺らぎを前提にした働き方は、働く世界そのものを豊かにする

身体の不調には自然と手当てをしても、心の不調には我慢を選んでしまう——これは誰にでも起こる傾向です。けれども、心が揺らぐことは弱さではありません。むしろ、それだけ日々を大切に生きている証です。
不調を隠すのではなく、揺らいだ自分を丁寧に扱い、揺らぎを受け止められる職場へと視点を変えること。評価は働く上で欠かせない仕組みですが、そこに至る前にはもっと多くの選択肢があるはずです。心の変化を尊重し合える環境は、働く人の可能性を奪うどころか、むしろ引き出します。
誰もが揺らぎながら働ける世界をつくること。それこそが、メンタルヘルスの壁を越えるという意味なのだと思います。それはあなた自身を守るだけでなく、あなたの周りの誰かを救う未来にもつながっています。

データソース
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